資産運用で大事なポイントの一つが、どの程度のリスクを取るのか決めることです。最悪の場合にどの程度の損失までなら許容できるかを、時間を掛けて、じっくり考える必要があるでしょう。
一般的な資産運用の本を読んでも、決まったルールは無いようです。正確に言うと、一応の説明は有るのですが、その説明に根拠があるようには思えません。「何となくこんな感じ」というのが著者の主観で示されるだけです。
ということは、自分が納得できるラインを決めるしかないわけです。
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株価の急落に耐えられる程度しか株式(株式で運用する投資信託を含む)を持たない
あなたはどの程度のリスクをとれますか?
資産運用を始める前に、自分がどれだけのリスクを取れるのかについては、必ず考えてみてください。この点を考えておかないと、いざと言うときにパニックを起こしてしまいます。
時々発生する株価の暴落が有っても大丈夫?
いざというときというのは、株価が急落したようなときですね。比較的近い例だと、2018年の年末に、アメリカ株が暴落がきっかけで世界的な株安がありました。
日本でも、22,000円前後あった日経平均株価指数が、数日で19,000円くらいにまで落ち込んでいます。15%程度の株価の変動が有ったわけです。
もうちょっと遡ると、リーマンショックのようなことも起こっています。さらには、バブル崩壊もありました。この手の大きな株価の下落は、時々起こることなのです。
思った以上に悪化したケースに関して想定していない人は、こういうときに慌てて売ってしまうのです。でも、資産運用という観点からすると、そういうパニック売りは最悪です。
長期運用なら株価が下がっても保持し続ける
長期での資産運用を考えているのでしたら、株価が多少下がったところで売るという選択はないはずです。予め決めたポートフォリオに従って資産を買い、保有し続けるのが長期投資の基本戦略だからです。
そして、株式などのリスク資産を使って運用する場合は、このような株価の変動があることを覚悟しておく必要があります。逆に言うと、こういう変動があっても大丈夫な程度しか、株式などのリスク資産を組み込んではいけないのです。
しかし、実際の下落が有ると、事前の予想以上に動揺する人も少なくないようです。事前の予想よりも動揺するというのは、次のような感じです。
自分は多少の下落では動じないと思って、株式の投資信託をポートフォリオの5割位もっていたとします。しかし実際に10%を超える暴落が短期に起こると、不安で不安で落ち着かなくなってしまうのです。あるいは、慌てて売ってしまったりするのです。
長期投資をするつもりは有っても、長期投資をする覚悟は無かったというところでしょうか。
どの程度のリスクに耐えられるか考えてみましょう
株式などリスク資産を使って運用する以上、こういう下落は起こりえます。特に株価というのは、下がるときには一気に下がりますからね。
しかし、そういう事があっても、慌てずに対処できるようにしておかないといけません。対処と言うか、一時的な下落なら保有し続けるだけなのですけど。
これは、逆に言うと、そういう大きな変動があっても大きなストレスを感じない程度しか、株式は持たないほうが良いのでしょう。
こういうのは見落とされがちなポイントです。ただ、実際の運用では非常に大事です。しっかり考えておきましょう。
株価が下がったときに慌てて売るなんて、最悪ですからね。
ちなみに、どの程度のリスクに耐えられるかという度合いをリスク許容度と言ったりします。リスク許容度を事前に決めておくことが、資産運用の計画を立てる上で大事なことです。
リスク許容度の目安は有るのだろうか
さて、実際のポートフォリオの中で、株式の割合をどの程度にとったら良いのでしょうか。
年齢ごとのポートフォリオ
これに関しては、資産運用の入門書に、モデルとなるポートフォリオが掲載されている事が多いようです。
例えば、夫が40歳代だったら、「株式は日本株と外国株が25%ずつ、外国債券が15%、残りは銀行預金などの安全資産で運用しましょう」というような事が書かれていたりします。
この手の記述がある場合は、年令によってリスク資産の割合を減らすのが一般的なようですね。例えば50歳代になったら、「日本株と外国株を15%ずつにまで減らしましょう」というような感じです。
「100 – 年齢」を目安にする
アメリカなどで流行っているのが、リスク資産の割合は「100-年齢」にしましょうというアドバイスです。40歳だったら、6割はリスク資産を持ちましょうという具合です。
ちなみに、リスク資産というのは、株式や外国債券など(これらの投資信託を含みます)をさしているようです。 REIT などの不動産の投資信託もこれに含まれるでしょう。
つまり、例えば40歳なら、「100 – 40」で、60%のリスク資産を持てることになります。そうすると、日本株25%、外国株20%、外国債券15%で持てばいいという話になるわけです。この割合がベストというわけではありませんが。
これらの説は根拠がなさそうです
このように、一見するともっともらしいアドバイスを見つけることはできます。ただ、資産運用本のモデルとなるポートフォリオも、「100-年齢」というアドバイスも、それほど根拠があるものではなさそうです。
というのも、数字が示されるだけで、納得できるような説明をみたことがありません。
資産運用本のアドバイスに従ってはいけない
それに、よくよく考えると、誰にでも当てはまるルールではないのです。これらのルールに従ってはいけない例は、いくつも思いつきます。
例えば、30代の人でも、金融資産が100万円しかなかったとしましょう。当然ですが、この人は、リスク資産なんて持ってはいけません。
100万円しかないのであれば、全額を預貯金で持つべきでしょう。資産運用はもう少しお金が貯まってから始めるべきです。
逆に80歳の人でも、1億円以上の資産があったら、大半をリスク資産として持っていてもいいはずです。仮に1億円が7,000万円になったところで、生活に困ることはありませんから。
年齢は判断材料の一つだが
年齢は、どれだけリスクを取れるかの一つの判断材料になるのは事実です。
しかし、年齢だけで決めるのは、短絡的過ぎるのです。
その人の経済状況なども含め、複合的に考えないといけません。ですから、自分の経済状況を分析し、どの程度のリスク資産を買えるのか考えてみる必要があります。
損をしたときに動揺しない?
リスク資産の割合を決めるもう一つの要素に、本人の性格の問題もあります。実は、年齢以上に、性格のほうが大事かもしれません。
例えば、ちょっとでも株価が下がると不安で仕方が無くなる人がいます。そういう人は、すぐにでも持っている株を売りたくなってしまうようです。
こういう性格の人が、リスク資産を多く持つのはちょっと難しいでしょう。
株式投資での10万円の含み損が気になって、日常生活に支障をきたすのでしたら、 害のほうが大きいでしょうからね。
5%資産が減っただけでパニックになるような人に、5割をリスク資産で運用しろなんて絶対に言えませんよね。そんな事が生活に影響するようなら、全額銀行預金の方が遥かにいいはずです。
こういう場合は、若くてお金がある人でも、安全運転の方が本人のためです。元本保証の商品の中で、資産運用を考えることになります。
例えば、個人向け国債などの金利変動に対応できる金融商品を考慮することになるでしょうか。
資産価値の下落の耐性は意外と低い?
ちなみに投資経験が少ない人は、株価などの変動に対する自分の耐性を過剰に見積もる傾向があるようです。
運用を始めたときには、短期的に2割や3割株価が下がっても、自分は平気でいられると思っている人は少なくないでしょう。しかし、実際運用してみると、株価がちょっとでも下がると不安になってしまうのです。
例えば、200万円分の株式の投資信託を持っていたとします。それが15%下がったら、30万円の含み損です。
このくらい下がると、不安で不安で仕方が無くなってしまうのです。実際の下落を体験すると、当初予想していなかったような心持ちになるようですね。
SNS を見ていても、そんな人が溢れていますよね。株価が10%程度下がっただけで、大騒ぎをする人をよく見かけます。まあ、SNS の場合は、そうやって煽っているだけの人もいるでしょうけどね。
何にしても、その程度の下落で不安になるなら、株式投資なんてしない方がいいでしょう。少なくとも、かなり割合は小さくすべきです。
でも、こういう傾向は、下がる前には気づかないもののようです。人間にはこういう傾向があることを加味して、考えてみることをおすすめします。
標準偏差と過去のリターンで、実際にはどの程度変化するかがわかる
実は、株式や債券価格の変動幅は、過去のデータを元に確率的に予想することが出来ます。過去の株価の変動から、標準偏差1 と過去のリターンがわかれば、そこから1年後の株価の変動幅がわかるのです。
標準偏差がわかると1年後の株価の範囲が予想できる
例えば、標準偏差が20%で平均リターンが5%だとしましょう。この場合、1年後の株価は、約68%の確率で、(5 ± 20 )%の範囲に収まるのです。
つまり、+25%から-15%の間の株価になるということですね。これが日経平均の標準偏差で日経平均が現在2万円だとすると、1年後の株価は 68%の確率で、24,500円 ~ 17,000円になるということです。
また、約95%の確率で、標準偏差の2倍の割合の変動に収まることも知られています。つまり、95%の確率で、(5 ± 40 )%の範囲に収まるのです。
1年後の株価は、+45%から-35%の幅に収まるということですね。先程の日経平均の例で行くと、1年後の株価は95%の確率で29,000円 ~ 13,000円の範囲で収まるわけです。
ちなみに、今回の想定である20,000円の日経平均が1年後に13,000円を下回る可能性も計算できます。これは2.5%の確率で起こりえます。
95%の確率で29,000円 ~ 13,000円になるわけですから、これを超える可能性が5%存在します。上る可能性も半分有るので、13,000円を下回る可能性は2.5%ということです。
生きているうちに大暴落が起こる確率
つまり、過去のデータを見る限り、40年に1度程度はこのくらいの暴落が起こるということです。生きているうちに、1度や2度は経験してもおかしくはありません。
もちろん、平均値に近い値になる可能性が大きいんですよ。でも、このくらいの暴落は生きている間に経験する可能性もあるということですね。
ここで示した日経平均のこの範囲は、統計的な計算で導き出されたものです。興味がある人は、大学1年か2年レベルの統計を勉強してみてください。
現実にはどの程度の範囲を想定したらいい?
上の例は、あくまで、標準偏差20%、過去のリターン5%として計算したものです。それでは、実際の株式投資ではどの程度の数字になるのでしょうか。
自分で計算するのは厄介かも
標準偏差は、知識とデータさえれば、自分で計算することも可能です。最近は表計算ソフトもありますから。
しかし、実際に自分で計算するとなると、なかなか厄介なのが現実です。また、標準偏差を計算したものを入手するのにも多少苦労します。
株式の場合は標準偏差20%程度か
そこで、一つの目安をご紹介しましょう。日本株にしても外国株にしても、標準偏差は1年で20%程度だと理解しておくと良さそうです。
つまり、上で計算例を示したような値で理解すればいいわけです。
ちなみに、外国株の場合は為替変動もありますが、それを含めてもリスクは変わらないと思って良さそうです。株価の変動と為替レートの変動で、相殺するからでしょう。
これは、過去の日経平均やTOPIX、外国の株式指数などからだいたいこの程度とわかります。あくまで株価指数の標準偏差なので、個別の株式だとさらに大きな変動が予想されます。
日本の公的年金の運用をするGPID だと、もう少し余裕を持った予想をしています。具体的には、標準偏差をおよそ25%として計算し、運用計画を立ててるようです。
株式のリターンは6%程度
また、株式のリターンですが、6%程度として計算すれば良さそうです。ということは、上で計算した日経平均の例で、だいたい問題はないということですね。
つまり、実際にはもう1%高くして、平均で6%上昇することが期待できます。また、約68%の確率で+26% ~ -14%の間に収まり、約95%の確率で+46 ~ -34%の間に収まるわけです。
確率的な変動幅からリスク資産の割合を決める
このように、確率的に変動幅がわかったところで、どの程度リスク資産を持つかを決めればいいでしょう。2.5%の確率で34%より大きい下落があっても大丈夫なら、全額を株式で運用しても問題はありません。
それに耐えられないというのであれば、株式の割合を減らしていけばいいわけです。
将来のことはわからないので、どのくらいの変動が有るかを断言することはできません。しかし、このように、確率的に知ることは可能です。
こういった情報が有るだけで、何もわからないのに比べれば、選択は遥かにしやすくなるでしょう。リスク資産の割合を考えるときの参考になさってください。
- 標準偏差の説明は、専門書などを参考にしてください。数字だけなら、ネットなどで調べれば載っていることもあります。 [↩]
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まずは確定拠出年金(個人型)を検討しよう
個人の資産運用で一番有利な金融商品は、何と言っても確定拠出年金(個人型)でしょう。いわゆるiDeCo のことです。
普通に働いている人なら、年間数万円から数十万円の節税が可能です。もちろん、完全に合法です。こんなに有利な金融商品は、他には存在しません。加入がまだの人は、とりあえず検討だけでもしてみてはいかがでしょうか。
iDeCo をはじめるには、窓口となる金融機関を選ばないといけません。お勧めはSBI証券かマネックス証券です。とりあえずは、資料請求だけでも。

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