ケーススタディ:
あなたは1,000万円で投資を始めました。しかし運用がうまく行かず、1年後に700万円まで資産を減らしてしまったとします。
このときあなたは、どちらの選択をしますか?
- A.失った300万円を取り返そうとする
- B.今持っている700万円をもとに投資計画を立て直す
こんなケースが起こってしまった場合、あなたならどうしますか。そして、どう考えるのが適切なのでしょうか。
ちょっと考えてみてください。
Contents
失った300万円の事を意識する人が多いでしょう。
こういう状況になった場合、失った300万円を取り返すことに固執する人も多いようです。1年で300万円失ったのだから、次の1年で300万円取り直そうと考えるのです。
でもおそらく、そういう行動パターンは良い結果をもたらしません。1年で700万円を1,000万円にしようと思えば、相当無理な投資をしないといけないからです。
もちろん、可能性がないとは言いませんけどね。やらないほうが良いです。
1年で取り戻そうと思えば、かなり危険なギャンブルです
700万円を1000万円に戻そうと無理をすると、リスクの大きな運用になります。ということは、失敗してさらに損失を大きくする可能性も大きいでしょう。
確率が5割の博打を打つようなものですね。いや、700万円を1000万円にするのですから、確率5割でもちょっと無理ですね。
普通に投資をした場合、平均的にそんなに儲かる金融商品は存在しません。ということは、株式など比較にならないくらいリスクが大きい商品で運用をしないといけないでしょう。
リスクが大きい商品というのは、うまく行ったときの儲けが大きい一方、失敗した時の損失も大きくなるのです。結果として、1年で300万円増やすつもりが、さらに大きく減ってしまう可能性だって、かなり大きいというわけです。
増えるときと減るときでは同じ額でも割合が違う
また、元本からの増加率・減少率から考えても、減らすよりも増やす方が難しいことです。1,000万円から700万円だと3割の減少です。しかし、700万円から1,000万円だと43%増やさないといけません。
比率で考えた場合、上がっているものが下がるより、下がったものが上がるほうが大きいのです。
株価などの変動は、額ではなく比率で考えるのが一般的です。1 その意味では、下げたものを上げるのは、さらに大変だということですね。
以下に無理をしないと取り戻せないかがよくわかるでしょう。
そもそも過去の1000万円に固執する意味は無い
それ以上に重要なのが、過去もっていた資産に固執することに意味は無いという点でしょう。
気持ちとしてはよく分かるんですけどね。失ったお金を数えても、何の意味もありません。2
仮に過去に何億円持っていたとしても、今700万円しか持っていないのなら、700万円の投資しかできませんからね。スタートがいくらだったかなんて、気にしても仕方がないのです。
ですから、過去に持っていた1,000万円は今後の投資に全く関係は無いはずです。そんなものを気にしても、本来は何の意味もありません。
失ったお金のことは忘れ、現在持っている700万円でどう運用するのが賢いのか考える必要があるのです。そう考えるのが難しいことは、承知していますけどね。人間は過去を振り返る生き物ですから。
確定していない場合でも立派な損失です
ちなみに、時価ベースで金融商品が下落している場合、損をしたと認めない人がいます。時価評価額が下がっている投資信託や株式をまだ売っていない場合は、損したわけではないと判断するのです。
体感的には、特に年配の人に多いように感じます。
例えば、1000万円で買った投資信託が、今売れば700万円でしか売れないとします。こういうケースで、「まだ確定していないから、損をしたわけではない」という感じのことを言うのです。
でも、これって、かなりの暴論ですよね。現在は700万円でしか売れないということは、市場がその程度の価値しか無いとみなしたということですから。
例えば、5000万円で20年前に買ったマンションが、現在の中古市場では3000万円の価値しか無かったとします。このとき、マンションの価値が3000万円だと言われて、疑問を持つ人はいないでしょう。
「いや、このマンションは5000万円で買ったのだから、売り値が確定するまでは5000万円の価値があるんだ」などという人がいたら、対応に困ってしまうでしょう。ちょっとヤバイやつだと思うかもしれません。
でも、「株価や投信の基準価額が確定していないから、損をしていない」と言っている人の理屈って、このマンションのケースと同じことなのです。本当に不思議なのですが、株式や投資信託に関しては、損失や利益を確定させるまでは、買った時の値段で評価するものだと思いこんでいるわけですね。
以前、株価に関しては、企業会計上は買った時の値段で評価するというルールがありました。その頃の名残を引きずっているのでしょうか。
年配者にこういう考え方をする人が多いのは、昔のルールに引きずられているせいかもしれません。
身近に居るんですよね
上に挙げたような、失ったお金にこだわるタイプの人は、私の周りにもいます。彼女は短期間で数百万円の損を出し、今それを取り戻そうとしている状態です。
現実には、こういう状況になると、アドバイスをするのも難しいですよね。本人は失ったものを取り返すことしか頭にありませんから。
「一回クールダウンして考え直せば?」とアドバイスしてもなかなか聞いてはくれないでしょう。700万円を基準に運用を考えてみようと言っても、1000万円が気になって、判断がブレるはずです。
もちろん一応は聞いてくれますけどね。本気になって考え直してはもらえないものです。失ったお金が大きいので、それを切り離せと言っても難しいようです。
まあ、これが人間の性なのでしょうね。なかなか、合理性だけでは行動できません。
- 例えば、100万円を200万円に増やすのと、1000万円を1100万円に増やすのでは、後者の方が圧倒的に楽ですよね。もっというと、国の年金だと10億円とか100億円程度なら、ほとんどリスクを取らなくても増やせてしまいます。資産運用は比率で考えるというのは、基本中の基本です。 [↩]
- ちなみに、このように特定の金額に影響を受けることを、行動経済学では、アンカリング効果というそうです。コトバンクのブランド用語集には「
最初に印象に残った数字や物がその後の判断に影響を及ぼすことをいう。」と説明がありました。 [↩]
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