経済関係の記事では、エコノミストが将来を予想するものが多いです。なんだかもっともらしいことが書かれていて、思わず納得してしまう事も多いでしょう。
でも、後から実際に検証してみると、予想は必ずしも正しくないことが多いです。全く箸にも棒にもかからない程の外れ方をしている事もあります。
全く予想が外れているとなれば、エコノミストの発言力は低下するはずです。でも、不思議なことに、この手の記事が検証されることはあまり無いようです。言いっぱなしで終わりなんですよね。
そこで、実際に検証してみるとどんな感じなのか、週刊朝日の記事を元に検証してみましょう。「来年は1ドル=120円か 景気悪化で円の実力もガタ落ち」という記事です。1
Contents
円安は悪?
この記事のスタンスは、円安は円の実力の低下でマイナスという考え方をしています。そして、景気が悪化すると、円安になると言いたいようですね。
三井住友銀行チーフストラテジストの宇野大介氏は説明する。
「10月31日に日銀が追加の金融緩和を発表したため、円の供給量がより増えるとみられたためでしょう。もう一つは、再増税を先送りするほど景気が悪いという認識が広まったためです」
つまり、ジャブジャブになったため円の価値が減っているうえ、景気悪化で円そのものの実力が落ち始めているということだ。
ちなみに、ストラテジストの意見は前半の鍵括弧の部分のみで、それ以降は記者の意見です。
「円の実力」という表現が抽象的過ぎて、率直に言って何を言いたいのかよく分からない部分はあります。まあ、とりあえず、円安は悪だと記事を書いた人は思っているようですね。ここではその点だけ認識して、先に進みましょう。
円安になると具体的に何がおこるかというと、次のように指摘しています。
急激な円安は、さらなる物価高となって国民を苦しめることになる。中小零細企業の経営は苦しい。原材料費が上がっても、価格に転嫁するのは難しく、円安は利益の減少につながる。
まあ確かに、このような指摘は間違ってはいないでしょう。ただ、円安のプラス面を意図的に無視しているような気もします。より正確に言うと、通貨供給を増やした結果のプラス面というべきなのでしょうか。
まあ、何にしても、ちょっとズルい書き方です。何かについて論評するときに、悪い側面しか言わないわけですから。まっとうな議論は出来ません。
結論を具体的な形で明言していませんが、そもそもこの記者はアベノミクスに否定的なのでしょうね。通貨供給を増やし円安にすることのマイナス面ばかりが書かれていますから。
円安は悪だと言う意見をもう1つ
円安は悪だと言うエコノミストの意見をもう1つご紹介しましょう。
BNPパリバ証券経済調査本部長の河野龍太郎氏は言う。
「円安は当初、輸出を増やすと期待されましたが、そうはならず、輸入品の価格を押し上げる弊害ばかりが大きくなっています」
11月に入って、バターが店頭から消えたと騒ぎになった。円安による飼料の高騰で酪農業をやめる人が増えたことが一因とみられている。今後もこうした円安による影響はそこかしこの業種で出てきそうだという。
河野龍太郎という方は、反アベノミクスの急先鋒のような人ですね。ここでの主張は、円安で悪いことばかり起きていい事は無いという主張のようです。
記者と同じような主張をする人の意見を、もう1つ紹介しているという流れです。
アベノミクスが目指していたのって円安だっけ?
さて、記事ではアベノミクスの皮算用を、次のように解説しています。
原材料費が上がれば価格も上がる→収入が増える→賃金上昇という流れがアベノミクスの描く未来像だったのだろうが、そんなに現実は甘くはなかった。
ここが、おそらく、この記事の一番酷いところです。そもそもアベノミクスって、円安を目指したんでしたっけ?担当大臣は、そんな話は全くしていないはずなんですよね。
アベノミクスの皮算用は、円安誘導ではありません。通貨供給を増やすという金融緩和をすることで、景気浮揚をはかったのです。円安は通貨供給が増えた結果に過ぎないのです。
もう少し細かく言うと、通貨供給を増やすことで、緩やかなインフレにするというのが1つの目標でした。緩やかなインフレの中でゼロ金利を継続することで、実質金利を下げようとしていたのです。で、実質金利を下げることで景気がよくなるという事を考えていました。
つまり、この記事の中で言うアベノミクスの未来像は、記者のオリジナルです。自分のオリジナルに対して、勝手に批判しているだけなのです。
意図を捻じ曲げて報じるのって、かなり悪質ですよね。しかも、それが政権が意図していることのように吹聴するのです。論点の捻じ曲げも、甚だしいですよね。
批判をするために、批判しやすいように前提を捻じ曲げたという感じでしょうか。
半年経ってどうなったかというと
さて、このような批判記事が書かれてからしばらくたって、実際にはどうなったのでしょうか。
これを書いている時点では、週刊朝日の記事が書かれてから半年程が経っています。その結果どうだったのかをチェックしてみましょう。
一言で言ってしまうと、景気は回復していると思って良いのでしょうね。株価は半年前よりも上がっていますし、完全失業率も下がっています。それに日銀短観の結果を見ても、景気がいいのがわかります。
もう少し具体的に数字を挙げてみてみましょう。
まず、株価ですが、記事が書かれた2014年の12月頃には1万7000円前後でした。それが現在では、2万円を超えたところで推移しています。つまり、景気の先行指標である株価は、右肩上がりなのです。
次に完全失業率ですが、2014年の年平均が3.6%だったのに対して、2015年の4月には3.3%まで下がっています。2013年の4.0%や2012年の4.3%とと比べると、確実に雇用環境がよくなっているのが分かります。完全失業率は、景気の遅行指数であると言われています。その遅行指数も改善しているわけです。
最後に日銀短観ですが、これは日銀のサイトで作ったグラフを見ると一目瞭然です。
ちなみにこの調査はどんな調査かというと、企業に対するアンケート調査です。そのアンケートの中で、景気が良いと思っているかどうかも聞いているのです。
黒が「大企業/製造業」、青が「大企業/非製造業」、赤が「中小企業/製造業」、緑が「中小企業/非製造業」の業況判断指数(DI)と呼ばれるもので、これが0より大きければ景気が良いと答えた企業が多いということです。
これを見るとわかるように、アベノミクスの成果で着実に景況感がよくなっているのが分かります。特に大企業がいいのが目に付きますが、中小企業も0よりも大きくなっていますから、景気はいいと感じている企業の方が多いという事です。
また、全体に右肩上がりですから、景気が回復していると感じている企業が増えているのも読み取れます。企業の肌感覚としても、景気は回復しているわけです。
ついでにもう1つ、数字を挙げておきましょう。河野龍太郎氏の指摘では、円安になっているのに輸出が増えないことが問題だとされていました。でも、2015年4月の貿易統計(速報)という資料を見ると、実は、輸出額は8か月連続で増加しているのです。
単純に輸出が増えたから良いというものでもありません。そもそも、その点から議論すべき問題ではあります。でも、記事の指摘はここでも的外れだったことが分かります。
これでも偉そうに語れるのがエコノミストやマスメディア
常識的に考えて、ここまで大きく予想を間違えたら、普通の仕事なら干されますよね。でも、エコノミストという人たちは、そういう批判を受けないようです。河野龍太郎氏は未だに同じような主張を繰り返しています。
マスメディアも同様で、いわゆるリベラル系のメディアは、現政権に対して批判的です。経済政策に対してのみならず、隙があればどんな小さなことでも批判するという感じですね。理屈ではなく、安部憎しが前提なのでしょう。
でも、安部憎しから経済分析を始めると、結論が的外れになるのです。今回の記事は、分かり易い例ですよね。政権批判が前提にあれば、いい政策でも悪いといわざるを得なくなりますから。
そもそもリベラル誌なら、雇用の改善は真っ先に評価すべきですよね。でも、朝日新聞にしろ週刊朝日にしろ、未だに批判一辺倒です。
週刊朝日、大丈夫か?
日銀短観に関して、ちょっと補足です。グラフを見ると分かるのですが、5%から8%への消費増税を行った時期に、景況感が悪化しています。つまり、消費増税は確実に景気を減速させていたということです。
でも、今回の週刊朝日の記事は、次のような書き出しになっていたのです。
来年10月に予定されていた消費税率の10%引き上げを安倍政権は2017年4月に延期した。
今後、再増税の先送りがデメリットとしてさらに表面化する可能性は否めない。
つまり、週刊朝日のスタンスとしては、増税すべきだったと言いたいわけです。増税しないと景気にマイナスって、どういうロジックなのでしょうか。
しかも、週刊朝日は当然リベラルよりのスタンスですよね。増税を声高に叫ぶリベラル誌って、意味が分からないのですけど。
それとも、週刊朝日は保守に宗旨替えでもしたのでしょうか?
あと、ここまで書いてきたようにこの記事では、多分に記者の独自の見解が盛り込まれています。アベノミクスの皮算用も、勝手に創作しています。そこまでやっていながら、署名記事では無いんですよね。独自の見解を表明するのなら、署名記事にするべきだと思うのですけど。
とりあえず批判しました。でも、あまり自信は無いので署名無しでということなのでしょうか。だとしたら、いくら何でも卑怯です。
- 来年は1ドル=120円か 景気悪化で円の実力もガタ落ち
※週刊朝日 2014年12月5日号 [↩]
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